研究概要 |
平成20年度は前年度に引き続き,グルタミン酸興奮性シナプス伝達に対するparaoxonの影響を明らかにするために海馬スライスを用いた電気生理学的実験を行った.電位記録は細胞外微小電極法(MEA system)を用い,Scheffer collateralを電気刺激(0.1Hz)して海馬スライスCA1領域に発生させたfield EPSP(以下,fEPSP;放線状層から記録,錐体細胞樹状突起上のグルタミン酸興奮性シナプス後電位を反映)およびpopulation spike(以下,PS;錐体細胞層から記録,錐体細胞体上の活動電位を反映)を同時記録した. ParaoxonはfEPSPを抑制した.またparaoxonはPSを変動(抑制あるいは増強)させ,一部のPSには痙攣波を続発させた.これらfEPSP抑制およびPS変動はwash outでは回復せず不可逆的であったが,atropineの前投与により消失した.これらの成績から,paraoxonのコリンエステラーゼ阻害作用により海馬スライス中に蓄積・増加したアセチルコリン(ACh)はムスカリン(M)型ACh受容体を介してグルタミン酸興奮性シナプス後電位を抑制するが,同時に神経細胞体興奮性を逆に増強するため,これら2者のバランスの結果として錐体細胞体での活動電位は変動(増強あるいは抑制の一方)を示すという機序が考えられる. ParaoxonのfEPSP抑制作用は,M1型ACh受容体(以下,M1型受容体)遮断薬(pirenzepine)前投与で完全に,またM3型受容体遮断薬(p-f-HHSiD)前投与では部分的に消失した.これらは,paraoxonによるグルタミン酸興奮性シナプス伝達抑制は,M1型およびM3型受容体を介することを示す.またM1型受容体遮断薬,M2型受容体遮断薬(methoctramine),M3型受容体遮断薬,M4型受容体遮断薬(tropicamide)の前投与はPS増強を消失させ,fEPSP変動とPS変動を平行化させた.これらは,paraoxonによる神経細胞体興奮性増強はM1型,M2型,M3型およびM4型受容体を介することを示す.
|