研究概要 |
平成21年度は,有機リン系ChE阻害薬が興奮性シナプス伝達および神経細胞体興奮性に及ぼす作用に対するベラドンナ剤(atropine)およびオキシム剤(pralidoxime)の治療的影響を,ラット海馬スライスを用いた電気生理学的実験(MEA-細胞外微小電極法)を用いて検証した.電位記録は細胞外微小電極法(MEA system)を用い,Scheffer collateralを電気刺激(0.1Hz)して海馬スライスCA1領域に発生させたfield EPSP(以下,fEPSP;放線状層から記録,錐体細胞樹状突起上のグルタミン酸興奮性シナプス後電位を反映)およびpopulation spike(以下、PS;錐体細胞層から記録,錐体細胞体上の活動電位を反映)を同時記録した.ParaoxonはfEPSPを抑制した,またparaoxonはPSを変動(抑制あるいは増強)させたが,その変化は有意ではなかった.PSおよびfEPSPに対するparaoxonの作用は,atropine前投与および同時投与により抑制された,Atropine後投与は,fEPSPに対するparaoxonの作用を抑制したが,PSに対するそれには影響しなかった. Pralidoxime前投与は,PSおよびfEPSPに対するparaoxonの作用を抑制した.しかしpralidoxime同時投与および後投与は,PSおよびfEPSPに対するparaoxonの作用に影響しなかった. これらの実験結果は,atropineおよびpralidoximeは早期に作用させた方がより強くparaoxonのChE阻害作用を抑制できることを示しており,有機リン中毒に対するatropineおよびpralidoxime治療的投与が早期の方がより有効という臨床的事実と矛盾しない.
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