研究概要 |
平成22年度は,有機リン系ChE阻害薬が興奮性シナプス伝達および神経細胞体興奮性に及ぼす影響のバランスおよびそれらに対する刺激強度の影響の詳細を,ラット海馬スライスを用いた電気生理学的実験(MEA-細胞外微小電極法)を用いて検証した.電位記録は細胞外徴小電極法(MEA system)を用い,Scheffer collateralを電気刺激(0.1Hz)して海馬スライスCA1領域に発生させたfield EPSP(以下,fEPSP:放線状層から記録,錐体細胞樹状突起上のグルタミン酸興奮性シナプス後電位を反映)およびpopulation spike(以下,PS;錐体細胞層から記録,錐体細胞体上の活動電位を反映)を同時記録した. PhysostigmineはfEPSPを抑制し,またPSを変動(抑制あるいは増強)させたが,その変化はparaoxonによるそれらの変化と同様であった.PSおよびfEPSPは刺激強度に比例して増大したが,低刺激強度ではPSの増大率はfEPSPのそれを下回った.PSはfEPSP増大と平行して増大した.これらPS,fEPSPおよび刺激強度3者の関係は,paraoxon,atropineおよびpralidoxime前投与に影響を受けなかった. これらの研究結果は,平成19~21年度において本研究で得られた諸結果,すなわち1)paraoxonによるChE阻害が興奮性シナプス伝達を抑制するとともに神軽細胞体興奮性を増強すること,2)これらの影響がムスカリン受容体の各種サブタイプを介すること,3)atropineおよびpralidoximeによる治療的作用は早期投与ほど有効性が高いこと,からのメカニズム解析に必須のものである.
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