骨は生きた組織で、骨の中に埋め込まれた細胞(骨細胞)は骨の改造に関わる。骨の表面で活発に骨を造っている骨芽細胞は自ら埋まり骨細胞となる。しかし、骨細胞は石灰化した硬い基質で取り囲まれ、栄養と酸素に乏しい環境に置かれることとなる。骨芽細胞が骨細胞になる過程で、苛酷な環境に適応するため、低酸素で発現する遺伝子HIF-1αと栄養源であるグルコースなどの単糖体を積極的に取り込むGlucose transporter(GLUT)を利用するであろうと考えた。そこで、マウス胎仔中手骨で、骨芽細胞が自ら埋まり骨細胞となる過程でこれらの遺伝子産物(タンパク質)の発現を免疫組織化学的に(特定のタンパク質に対する抗体を利用する手法で)調べた。HIF-1αは骨表面にある骨芽細胞の細胞質に強い反応を示し、それは骨芽細胞になる骨膜細胞よりも強い反応であった。同様に、骨の基質に取り囲まれたばかりの若い骨細胞にも強い反応がみられた。至る所に発現して基本的なグルコース輸送に関わるGLUT1は骨芽細胞にみられたが、骨細胞で最も強い反応が認められた。また、グルコースが少ない環境において最も効率よくグルコースの取込みに関わるGLUT3は骨芽細胞、骨細胞ともにわずかにしか発現していなかった。さらに、単糖体の一つのフルクトースを選択的に取り込むGLUT5はGLUT1に似て骨芽細胞に弱く、骨細胞に強く反応した。しかし、骨膜細胞にはこれらGLUTはほとんど観察されなかった。こうした結果から、骨細胞は骨芽細胞から引き続きHIF-1αを発現し、GLUT1とGLUT5を増強する(栄養を積極的な取り込む)ことで、苛酷な環境下で生き延びようとしていると推測された。今後は、骨芽細胞や骨細胞を利用して低酸素環境下で生き延びるかを、またその時にどのような遺伝子が新たに発現するかを実験細胞学的に検討する。
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