成熟バイオフィルムは抗菌薬や生体防御機構に抵抗する重要な成分である。P.gingivalisのバイオフィルム形成菌は浮遊菌に比較し遺伝子発現に相違がみられたが、抗菌薬耐性機構等に関与する遺伝子等については、明確にできていない。バイオフィルムが成熟することは物理的に抗菌薬の浸透の阻害や抗体や食細胞の作用に対する阻害に関与する大きな要因と考えられる。Pseudomonoas aeruginosaのバイオフィルムの成熟にはlasI遺伝子から発現されるAI-1が必要とされている。P.gingivalisの類似の作用をもつAI-2を産生する。P.gingivalisのAI-2産生に関与するluxS変異株と親株の96well plateへのバイオフィルム形成性を検討したところ、親株に比較し、luxS変異株の方がバイオフィルム形成量が多く、バイオフィルム形成率も高いことが観察された。このことはP.aeruninosa等で報告されていることとは逆の現象であった。P.gingivalisの親株とluxS変異株における菌体のタンパク質発現の2次元電気泳動による比較において親株ではアルギニン特異的システインプロテアーゼ(Rgp)がluxS変異株より多く産生されており、luxS変異株ではNAD-specific glutamate dehydrogenaseが多く産生される違いが観察された。これらのことより、P.gingivalisではAI-2は単独でのバイオフィルム形成の成熟に働くのではなく、バイオフィルム形成菌の結合を弱め、一部の菌を遊離させ、他の菌との共凝集を促進するように働く可能性が示唆された。また、両菌株間で相違がみられたこれらの成分は直接的または間接的にバイオフィルムの成熟や遊離に関与している可能性が示唆された。
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