本研究は、唾液分泌に関与するシグナル分子の動態と、分泌の分子メカニズムとの関係を明らかにすることを目的とする。そのために、ウイルスベクターやその他の方法を使って、生体内の唾液腺組織中に種々の蛍光タンパク質を融合したシグナル分子を発現させ、その動態を生きた唾液腺細胞でリアルタイムに解析する。 まず、蛍光標識シグナル分子の発現ベクター作製を行った。唾液分泌の重要なシグナルであるCa^<2+>流入に重要な役割を果たすStim1およびOrai1分子に、YFP、DsRedやオレンジ色の蛍光タンパク質であるmKO1を融合させたYFP-Stim1、Stim1-mKO1ならびにDsRed-Orai1発現ベクターを作製した。これらを唾液腺由来のHSY細胞に発現させたところ、YFP-Stim1やStim1-mKO1は小胞体に、DsRed-Orai1は細胞膜に発現することが確認された。さらに、Stim1を欠損させたDT40細胞にYFP-Stim1およびStim1-mKO1を発現させたところ、Ca^<2+>流入反応が回復したことから、これらの融合タンパクが機能的であることが確認された。また、水分泌に重要な役割を持つアクアポリン5(AQP5)にGFPを融合したGFP-AQP5発現ベクターを作製した。現在、これらの融合タンパク質を発現するアデノウイルスベクターの作製を行っている。 動物の唾液腺に外来遺伝子を導入する方法として、ラット顎下腺開口部から逆行性に遺伝子を導入する方法を検討した。予備実験として、顎下腺開口部にチューブを挿入し、色素を注入したところ、顎下腺の導管の大部分に色素が観察された。このことから、逆行性注入法により外来遺伝子が顎下腺組織の末端まで導入できる可能性が示された。現在、さらなる条件検討を行うとともに、耳下腺開口部からの逆行性注入法も試みている。
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