研究概要 |
アポトーシスとは、細胞の縮小や断片化、核の凝集と断片化といった形態的な特長を呈するあらかじめプログラムされた細胞死のことで、様々な分子間のシグナル伝達によるコントロールを受けている。そのなかでも、カスパーゼ3はシステインプロテアーゼの一種で、刺激により活性化されると、PARP(ADP-リボースポリメラーゼ)をはじめとするさまざまな細胞内基質を分解し、アポトーシスを誘導すると考えられている。骨形成を担う骨芽細胞は、骨細胞となり骨内に埋め込まれる際にその半数はアポトーシスすると考えられている。また、破骨細胞も骨吸収終了後に骨面から離れアポトーシスすることが示されている。骨系細胞のアポトーシスは骨組織における重要な代謝機構のひとつと考えられ、その調節を担うカスパーゼ3は何らかの関与をする可能性がある。そこで今回、カスパーゼ3遺伝子欠損マウスを用い、その役割を検索した。8週齢マウス頭蓋骨について肉眼観察及びX線撮影を行ったところ、遺伝子欠損型マウスの頭蓋冠はドーム状を呈し、眼耳平面と後頭蓋底前後径との交線は野生型に比べて鈍角となり、頭蓋の成長抑制が認められた。さらに、遺伝子欠損型では加齢に伴い頭蓋骨の膜性骨化の亢進と下顎前突症の所見が認められた。新生仔脛骨を通法に従い固定、脱灰後,パラフィン包埋による組織切片とし、TRAP染色を施したのち、顕微鏡にて破骨細胞の数を計測したところ、遺伝子欠損型では破骨細胞数の減少が認められた。この減少が骨芽細胞からの支持能減少に伴うものかどうかを検討するためにカルバリアより骨芽細胞を調整し、OPG mRNAの発現を検討した。遺伝子欠損型の骨芽細胞では野生型に比べ培養開始から、その発現量の増加が見られた。また遺伝子欠損型骨芽細胞のin vitroにおける石灰化亢進も認められた。アポトーシスを制御するカスパーゼ3の遺伝子欠損マウスでは、石灰化亢進を伴う頭蓋形成異常と、成熟破骨細胞数の減少を認めた。これらのことから、カスパーゼ3遺伝子は、骨芽細胞と破骨細胞のアポトーシス制御という面から、骨形成と骨吸収の微妙なバランスを保ち、正常な頭蓋の成長発育などを調整していることが示された。
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