研究概要 |
骨芽細胞のマトリックス金属プロテアーゼ(MMP),金属プロテアーゼ組織インヒビター(TIMP),プラスミノーゲンアクチベーター(PA)およびPAインヒビター-1発現に及ぼすニコチンとLPSの単独刺激および同時刺激の影響を調べた。その結果,MMP-1,-2,-3およびtPAの発現は,それぞれの単独刺激で上昇し,同時刺激ではさらに上昇した。一方,TIMP-1,-3,-4の発現は,単独刺激で低下し,同時刺激ではさらに低下した。また,ニコチンとLPS刺激によって上昇したMMP-1発現は,ニコチンとD-tubocurarineあるいはLPSとpolymyxin Bとの同時刺激によって,コントロールレベルまで低下し,MMP-1発現がニコチンとLPSの作用によって上昇したことが確認された。我々は,ニコチンとLPSが,骨芽細胞のプロスタグランジンE_2(PGE_2)産生を増加させることを,前年度の研究で明らかにした。そこで,上昇したMMP-1発現は,PGE_2産生を伴うオートクリン作用によるものではないかと考え,MMP-1発現に及ぼすシクロオキシゲナーゼ(COX)-2選択阻害剤(NS398,celecoxib)の影響を調べた。その結果,ニコチンとLPS刺激によって上昇したMMP-1発現には,阻害剤の影響は認められず,PGE_2のオートクリン作用は関与していないことが明らかになった。これらの結果から,ニコチンおよびLPSは,骨芽細胞による骨基質タンパク代謝を分解系に傾けることが示唆され,この傾向は,それらの同時刺激の方がより顕著であることが明らかになった。また,破骨細胞の機能発現に及ぼすニコチンの影響では,ニコチンはERKを介して酸産生酵素の発現を増加することが明らかになった。以上のことから,歯周病原因菌の内毒素と喫煙という2つのリスクファクターの重複によって,歯槽骨における骨基質タンパク代謝はより一層分解系に傾く可能性が示された。その他,本研究の関連実験として,炎症性サイトカインの中で,IL-1βがPGE_2産生を介して軟骨細胞のEP4受容体発現を促進すること,IL-17が破骨細胞の分化を抑制することが明らかになった。
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