我々は、Porphyromonas gingivalisの抗酸化ストレス蛋白rubrerythrinが感染局所においてrespiratoly burstに強く抵抗することで、同部位において酸化環境を醸成すること明らかにした。本研究では、まず細胞レベルにおけるP. gingivalisの感染と、組織破壊あるいは心血管疾患の関連の解明を目的に、マウス由来マクロファージ様細胞(J774.1細胞)ならびにヒト歯肉上皮細胞をP. gingivalis W83株(Wildtype)とその抗酸化ストレス蛋rubrerythrinの変異体(Rb^-)で刺激し、炎症やアテローム性動脈硬化に関与する分子の発現について、抗体アレイを用いてタンパクレベルで検討した。歯肉上皮細胞では刺激を行った菌種の違いによるサイトカインの産生プロフィールに大きな変化は見られなかったが、J774.1細胞においては、IL-6産生の明らかな低下が観察された。このことはrubrerythrinの変異による酸化環境の誘導能力の低下が炎症の誘導に影響することを示唆している。加えて、マウス口腔にP. gingivalisを接種することで誘導される実験的歯周炎において、抗酸化物質の投与が骨吸収を抑制することを明らかにした。加えて、アテローム性動脈硬化の初期病変である泡沫細胞の形成に重要な変性LDLの取り込み能を評価するため、J774細胞を蛍光標識アセチル化LDL存在下でWildtypeとRb^-で刺激し、細胞内へのLDLの移行を観察したが、両者で有意な変化は見られず、P. gingivalisの感染による酸化環境の誘導は、変性LDLの取り込みそのものには関与しないことが示唆された。これらの結果は、酸化環境が歯周病菌感染による炎症や骨吸収の誘導に影響を及ぼすことを示しており、酸化環境の中和によりこれらの臨床症状が緩和できる可能性を示唆している。
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