研究概要 |
感染根管治療の前後で根管内細菌が質的・量的にどう変化するか、東北大学病院附属歯科医療センターの歯内・歯周療法科を受診し、根尖性歯周炎に罹患していると臨床的に診断された患者に研究の趣旨を説明し、インフォームドコンセントを得て検索した。術前、治療中、根管充填直前の根管壁から手用ファイルを用いて象牙質削片を採取、嫌気グローブボックスに搬入、40mMリン酸カリウム緩衝液中で分散・均一化後、連続10倍希釈でCDC血液寒天培地に接種し1週間嫌気培養、CFUを求めた。さらに、生育したコロニーからDNAを抽出し16S ribosomal RNAのユニバーサルプライマーでPCR増幅、得られたPCR産物を制限酵素で消化後の泳動パターンを基に選別、シークエンス解析した。その結果、術前の根管内細菌叢の構成は根管治療歴の有無や根管と口腔との交通の有無に左右され、症例により多種多様の細菌が存在することが判明した。その中でPseudoramibacter, Olsenella, Propionibacterium, Lactobacillus属などは比較的高頻度で存在していた。生理食塩水浴下で根管を拡大形成すると、根管内総細菌量(log CFU/mL)は平均3.11となり、術前の平均5.70に比較し1%以下に激減したが、感染源の除去は不十分であった。しかしNaOC1を用いた化学的洗浄と抗菌剤の貼薬を追加施行すると、大多数の症例で次回来院時の象牙質試料は培養陰性となり、根管内の感染はchemo-mechanical preparationと根管貼薬によりほぼ制御できることが判明した。難治性根尖性歯周炎との関連が注目されているEnteroccus faecalisも、本研究では特に治療抵抗性を認めず、感染根管治療の失敗の原因は、細菌学的側面だけでなく、免疫学的・解剖学的側面からも分析する必要があると思われた。
|