研究概要 |
本年度は、フローセル系で作製したバイオフィルムに各種抗菌剤を作用し、アジスロマイシン(AZM)やエリスロマイシン(EM)の効果と比較検討した。さらに、AZMがPorphyromonas gingivalisのクオラムセンシング関連遺伝子の発現に及ぼす影響をリアルタイムPCRにより定量し、バイオフィルム形成時に機能する遺伝子の同定を試みた。 AZMは、最小発育阻止濃度以下の0.125μg/mlにおいてフローセル系P. gingivalisバイオフィルムを有意に抑制し,EMと比較してより有用であることが明らかとなった。アンピシリンとオフロキサシンは、最小発育阻止濃度以上で抑制効果がみられ、バイオフィルム菌は抗生物質に抵抗性を示すという一般的な従来の概念に一致した結果となった。ゲンタマイシンはP. gingivalisバイオフィルムを抑制しなかった。3次元像においても,AZMは顕著なバイオフィルム抑制効果が確認されたが,0.125μg/mlでは死菌はほとんど確認されなかった。したがって、この抑制作用は殺菌的ではなく,バイオフィルムの構造自体や,シグナル伝達機構等に影響したものと推察された。MIC以下で臨床応用できれば,耐性菌の出現が抑制可能となり,極めて有意義な薬剤としての地位が確立されると考えられる。一方,これら2種のマクロライド系薬剤のP. gingivalisバイオフィルムに対する作用機序は不明であり,この効果がクオラムセンシング阻害であるか,菌体外マトリックス破壊によるか等,抗バイオフィルム薬としての作用機序を明確にすることが今後の検討課題である。 また、研究実施期間内に検索したクオラムセンシング関連遺伝子のうち、AZMやEM作用時に発現量に有意差がみられた遺伝子は無かったが,検索は継続しておりマクロライド系薬剤のクオラムセンシングを介したバイオフィルムへの作用は近い将来明らかになると考えている。
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