研究概要 |
前年度の結果から,リン酸化プルランと塩化セチルピリジニウム(CPC)の組み合わせが,ハイドロキシアパタイト表面に抗菌作用をもたらすエージェントとして,有効なものであることがわかった。しかし,ハイドロキシアパタイトに実際にリン酸化プルランとCPCが付着・保持されているかどうかは確認できていない。またエージェントがアパタイト表面に完全に固着してしまい,殺菌成分であるCPCが放出されないのであれば,抗菌作用が及ぶのはは表面のごく狭いエリアになってしまう。そこで今年度はこの組み合わせた物質がハイドロキシアパタイトの表面に実際に吸着・徐放しているかどうかを明らかにした。 DDS材によるアパタイト表面へのCPCの送達ならびにその表面からの徐放を,水晶発振子マイクロバランス法(QCM)によって評価した。なお,QCM装置におけるセンサーはアパタイトを用い,ごく微量な質量の変化を測定した。測定は,試料室に蒸留水を1分間(0-1分)流した後,試験溶液を3分間(1-4分)流し,再び蒸留水を流して洗浄(4-7分)した。この過程の水晶振動子の振動数変化をもとに,CPCならびに担体とCPCの混合物のアパタイト表面への吸着特性ならびにアパタイト表面からの解離特性を経時的に分析した。 その結果,CPC溶液のみでは,ほとんど周波数が変化しなかったのに対し,CPCとリン酸化プルラン溶液では周波数が著しく低下した。周波数が低下するということは,センサー表面に物質が付着して全体の質量が増加したことを示している。この結果からCPCとリン酸化プルラン溶液は,CPC溶液のみと比べてハイドロキシアパタイト表面に多量に吸着することが明らかとなった。吸着は溶液注入後,急速に進行し1分後には定常状態となっている。定常状態後,再び蒸留水を流した(4-7分)ところ,周波数が徐々にもどって(増加し)いく傾向が確認できた。 リン酸化プルランの担体効果をみたQCMでは,CPCとリン酸化プルランの複合体は,CPCのみと比べてハイドロキシアパタイト表面に多量に吸着することが明らかとなり,洗浄により周波数が徐々に戻ることから,本剤はハイドロキシアパタイト表面から徐々に離脱することが示唆された。周波数の増加は吸着の際の変化にくらべ,ゆるやかでありエージェントの放出が緩慢に徐々に起こっていることが判明した。 この,アパタイト表面への急速な付着と緩慢な放出は,抗菌作用を長期間維持するために理想的な挙動であり,このリン酸化プルランとCPC混合物が歯面に対する抗菌エージェントとして有力な候補であることが強く示唆された。
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