研究概要 |
象牙質鶴齲病巣に棲息する細菌のクオラムセンシング機構を解明することは,象牙質齲蝕の発症ならびに進行機序の本質を解き明かす上で極めて意義があると考えられる。本研究ではクオラムセンシング機構に関与する遺伝子として知られているhtrA遺伝子に着目し,象牙細管内のような微小空間で間隙なく増殖棲息する細菌の中で本遺伝子がどのように発現するか,あるいは齲蝕を発症する上で必要となるバイオフィルムの形成能に,本遺伝子がどのように関連しているのかを解析するために,既に遺伝子配列が解明されているStreptococcus mutans UA159株を用いて,htrA遺伝子をknockoutした遺伝子改変株の作成を試みた。すなわちS.mutans UA159のgenome DNA上のhtrA遺伝子の情報にもとづきprimerを設定し,PCRを行うことでhtrA遺伝子を得た後,その内部配列に薬剤(エリスロマイシン)耐性遺伝子を挿入し,suicide vectorを構築した。最後にCSPを添加した培地中で,このvectorとS.mutans UA159(野生株)を培養することにより相同組換えを起こさせ,htrA遺伝子改変株を得ることに成功した。この改変株と野生株の増殖曲線および種々の培養条件下での水溶性グルカンならびに非水溶性グルカンの形成能を比較検討した結果,htrA遺伝子改変株の方が,野生株に比較して増殖速度やグルカン形成能の点で低下する傾向を示した。これらの結果より,htrA遺伝子がグルカン形成能に関与していることが明らかとなった。
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