研究概要 |
本研究では、口腔内好中球の細胞死の機序を,1)細胞内活性酸素量および細胞内グルタチオン量,2)flow cytometry解析および電子顕微鏡を用いた形態学的検討,シグナル伝達阻害剤および抗酸化剤による細胞死の遅延効果,アポトーシス関連分子の発現様態,カスパーゼ活性およびミトコンドリア膜電位を指標として評価した.さらに、天然素材のマスティックによる口腔内好中球の細胞死抑制作用を解析した。 口腔内好中球は,末梢血好中球に比較して以下の特徴を示した。(1)約2倍の活性酸素を産生した.(2)約1/2の細胞内グルタチオン量であった.(3)分離・調整後2時間で約60%以上の細胞にアポトーシスおよびネクローシスが観察された.(4)TEM像から,2時間後にクロマチンの凝縮および細胞質内に多数の空胞変性を認めた.(5)NACおよびGSHは細胞死を有意に遅延した(p<0.05).一方、caspase inhibitors、p38MAPK inhibitor,およびcatalaseとSODによる細胞死の遅延効果はみられなかった.(6)カスパーゼ3,8および9活性は全て有意に低かった(p<0.05).(7)アポトーシス促進性Badおよびcytochrome-cの発現量が有意に高く,アポトーシス抑制性のリン酸化Badの発現量は有意に低く,Baxは同程度に発現しており,Bcl-2は全く検出されなかった.(8)ミトコンドリアの膜電位が有意に低下していた(p<0.05).(9)マスティック含有成分は口腔内好中球の細胞死を有意に抑制した。 口腔内好中球は既に自身が産生した活性酸素によって活性化されており,細胞内グルタチオン濃度が低下していた.カスパーゼ非依存的なアポトーシスが発動されていると考えられた.SH基を有する抗酸化剤あるいは天然素材のマスティックによって細胞死を効果的に遅延させることができたことから,口腔内好中球の細胞死を遅延させることで口腔内の感染防御能を高める,「抗酸化療法」によって口腔内感染症の予防および治療法の開発に繋がる可能性が示唆された.
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