本研究では、ワンボトル・ワンステップボンディング材とエナメル質および象牙質との相互作用の詳細を溶液のNMR法で解析するとともに、ワンボトル・ワンステップボンディング材の加水分解安定性を検討した。 すなわち、クリアフィルトライエスボンド2.00g中にハイドロキシアパタイト粉末または切削したウシ歯冠象牙質粉末を0.40gを懸濁し、10分間振盪・撹拌した。その後、これらの懸濁液を遠心分離し、ボンディング材上澄み液の13C NMRスペクトルを測定した。得られたNMRスペクトルから、クリアフィルトライエスボンドに酸性モノマーとして添加されているMDPのビニル基メチレンカーボンに帰属されるNMRピークのHEMA分子内ビニル基メチレンカーボンのNMRピークに対する相対強度を求め、その強度変化から歯質成分の脱灰により生成されたMDPのカルシウム塩の生成量を算出した。なお、コントロールとしてクリフィルメガボンドを用いた。 その結果、クリアフィルトライエスボンドにハイドロキシアパタイトまたは象牙質を添加し、両者を相互作用させると、MDPのビニル基メチレンに帰属されるNMRピークの相対強度は減少し、その減少率はハイドロキシアパタイトで16.3%、象牙質では63.5%であった。これは、MDPが歯質アパタイトを脱灰し、ボンディング材に不溶性のカルシウム塩を生成して析出したためと考えられる。しかし、MDPのカルシウム塩の生成量はクリアフィルメガボンドを用いた場合に比べて低いことがわかった。 また、加水分解安定性はライエスボンドの方がメガボンドに比べて、高いことがわかった。これは、ボンディング材がエタノールで希釈されているため、MDPのリン酸基の電離が抑制されたためと考えられた。 以上の結果から、MDPのリン酸基の電離の程度が歯質アパタイトの脱灰能、および加水分解安定性に影響を及ぼすことがわかった。
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