研究概要 |
近年,患者中心の医療へのシフトにより,補綴治療効果の指標として口腔関連QoLや患者の満足度などの患者立脚型アウトカムが重要視されている.一方,補綴治療の目的として客観的な咀嚼能力の回復が重要であることから,これまでに様々な咀嚼能力の評価方法が開発されてきた.しかしながら,患者立脚型アウトカムと客観的な咀嚼能力の関連について十分に検討されていない.本研究では,部分床義歯装着者における客観的な咀嚼能力(混合能力と粉砕能力)と患者立脚型指標(口腔関連QoL,義歯に対する患者満足度,食品摂取状況による主観的な咀嚼能力)との関連を検討した.混合能力試験では, 37℃に保温した1辺12mmの赤と緑に着色したワックスキューブ1個を10ストローク咀嚼させた.咀嚼後の試料の色の混合度と形状から混合値を算出した.粉砕能力試験では,ピーナッツ3gを20ストローク咀嚼させた.規格篩で篩い分けし,各篩を通過した食片の累積重量%から,平均粒径を算出した.その結果,混合能力と粉砕能力と口腔関連QoLとの間に有意な相関は認められなかった.義歯満足度については,下顎義歯で,混合能力と主観的咀嚼能力,粉砕能力と主観的咀嚼能力,粉砕能力と総合満足度に有意な相関が認められた.上顎義歯については,患者満足度と混合能力および粉砕能力との間に有意な関連は認められなかった.食品摂取状況から算出した主観的咀嚼能力スコアは,混合能力および粉砕能力に有意に関連していた.以上の結果から客観的咀嚼能力と口腔関連QoLや義歯満足度との関連は弱ことが示唆された.
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