骨の再建においては、骨端より遊走してくる骨原性細胞と新生してくる毛細血管により骨組織が再生する。すなわち、周囲の骨組織に接している部分では、骨再生は良好に促される環境にあるが、骨欠損の中央部では血液供給が乏しいことから、骨形成には不利な環境にある。これを解消するためには、骨欠損の中央部に対して、酸素や栄養などを供給するための血行の確保が必要である。血管の再建においては、大血管より分岐した小口径の人工血管が存在しないことから、自家移植による再建しか治療方法がない。これに対し、現在のティシュ・エンジニアリングによる血管再生では、血管内皮細胞を培養して小口径の血管を培養して作る方法が世界的に試みられているが、多くの困難さのためにまだ実現していない。以上のことから、現在の技術では、ティシュ・エンジニアリングの方法を用いても大きな骨欠損部における骨再建は実現できないでいる。このような問題を解決するためには、次の技術的課題を解決する必要がある。<移植直後の血行確保>移植した直後から人工骨への血行を確保して、移植された少数の細胞への酸素・栄養の補給を可能とすること。<小口径の血管の導入>経時的に毛細血管が誘導され、細胞の増殖とともに人工骨全体にわたる毛細血管網が構築されるようにすること。<人工骨材料の最適化>人工骨の形態・組成・気孔構造などを細胞や血管の侵入に適するようにするとともに、速やかな骨形成が誘導されるように最適化した材料を開発すること。これらの課題については、それぞれが単独での研究が行われているが、それを統合した際の組織再生のメカニズムについては明らかにされていない。そこで本研究では、人工骨へ血液を供給する小口径人工血管の開発と骨形成に必要な毛細血管の誘導方法の開発、そして骨形成に最適な人工骨の形状を明らかにして、大きな骨欠損の再建を実現しようとするものである。
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