本研究を実施した結果、以下の成果を得ることができた。 (1)有床義歯患者とのコミュニケーションに関する基礎調査の結果、歯科医師会会員では、強い解釈モデルを有する高齢有床義歯患者に対する対応は、客観的根拠に基づき必要なことを実施するといった対応と、患者の希望や意思を尊重する対応の二種に大きく分類された。また、高齢者とのコミュニケーション能力を学習するために望ましい方法は、「現場での体験」という回答がすべてのグループで最も多かった。 (2)医療コミュニケーショントレーニングを実施した結果、本トレーニングは大半の研修歯科医から有益であったとの評価を得た。フィードバック方法の工夫は、自分自身の行動の振り返りを促し、個々の行動変容に影響を与える可能性があった。 (3)研修医にOSCE(客観的臨床能力試験)を実施した結果、医療コミュニケーション能力評価において、OSCEは極めて有効であることが示唆された。医療面接課題の結果、医療者としての態度としてのコミュニケーション能力はスコア3(表現可能・精確)であったが、感情面への配慮などに関する「カウンセリング能力」はスコアが低い傾向であった。 (4)介護施設における研修の結果、本研修は、高齢者との医療コミュニケーションを学習する、という目的だけにとどまらず、高齢者医療における極めて本質的な問題点に対して考える「きっかけ」を与えてくれた。 以上のことより、有床義歯患者をはじめとする高齢者や、強い解釈モデルを有する患者に対しては、医療における"Science"と"Art"の両側面を十分ふまえて対応する必要があること、またその教育プログラムは現場での体験をベースに、学習者のレディネスを考慮した医療コミュニケーション教育カリキュラムを構築する必要があると考えられた。
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