研究概要 |
生体適合性の観点から細胞毒性の報告のない生体安全性の高い元素のみで構成され,優れた耐食性と皮質骨に出来るだけ近似した低い弾性率を示す新しいチタン-ジルコニウム系合金の開発を目指した研究を行った。すなわち,TiにZrを20,40,60,70,80at.%添加したTi-Zr系2元合金を作製し,鋳造のままのサンプルのビッカース硬さとヤング率を測定するとともに,電気化学測定法により37℃の0.9%NaCl水溶液中における耐食性を調査した。その結果,以下の事がらが明らかとなった。 (1) Tiに対するZr添加によってTi-Zr合金のヤング率は効果的に低下し,Ti-60at.%Zr組成で最小値89.5GPaを示した。一方,合金化によってビッカース硬さが急激に増加し,Ti-60at.%Zr組成で最高値369VHNを示した。 (2) 現行の生体用チタン合金の多くが,皮質骨より著しく高い110~120GPaのヤング率を示すことを考慮すると,本研究で作製したTi-60at.%Zr合金は弾性率の適合性の観点から生体骨代替材料として優れている。 (3) 電気化学測定法による耐食性の検討結果より,Zr濃度が40at.%までの合金では+1Vの高電位に達しても孔食は発生しなかったが,60at.%Zr添加合金では+0.6V付近で孔食が発生した。Zr濃度が70at.%以上に達すると孔食電位が+0.3V付近まで低下し,耐食性の低下が認められた。 (4) 耐食性の点では,生体内で使用するにはZr濃度を50at.%程度以下に抑制すべきことが示唆された。
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