研究概要 |
アクリル系軟質リライン材の臨床効果の検討を目的に2004年~2006年に実施した無作為割付試験終了後、長期予後を判定するためフォローアップスタディーを行った。同意が得られた研究対象者はアクリル系軟性裏装材使用総義歯装着者(軟性群)32名,通法義歯装着者(通法群)35名であった。2010年を追跡最終年として、義歯の使用状況に関する生存分析を行った。義歯の再製とリラインをイベントの発生と定義し、途中打ち切り例は、消息不明者、死亡者、研究参加拒否患者、追跡最終年までの義歯使用者とした。生命表の分析結果、装着後25から35か月後に義歯の再製とリラインの発生回数が急激に増加していることから、装着2~3年後に義歯の不調を訴える患者が増えることが予測された。軟質義歯の最終的生存率は41.4%、通法義歯の最終的生存率は62.8%であり、軟性義歯の生存率は通法義歯より低い値を示したものの、カプランマイヤー法を用いた分析では両者間に統計的有意差は認められなかった(log-rank test,p=0.15)。しかしながら、年齢や性別、顎堤条件等を統計的に調整するCoxのハザードモデルによる分析を行ったところ、義歯装着時の年齢が高いほど義歯の使用期間が短くなる傾向(p=0.07)があることや、軟性群は通法群より使用期間が短くなる傾向(p=0.08)にあることが示された。軟性リライン材の柔らかさは可塑剤によって維持されているが、経時的に可塑剤の流失によって劣化が進む。軟性群の被験者がリライン・再製を希望する理由として、義歯の汚れや義歯床内面の変化を挙げていることから、材料の劣化が両群の生存率の差に大きく関わっているものと考えられる。
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