研究概要 |
歯科生体材料からの溶出物がヒト肝臓や腸内細菌によって代謝され化学構造が変化することで,生成した活性代謝物が全身毒性,発生毒性,変異原性やがん原性の原因となることが指摘されている.そこで,ヒトの発生に及ぼす歯科生体材料の影響をより正確に予測する目的で,試料をヒト肝機能を長期間維持しながら培養し,ヒト代謝活性因子を導入してからマウス由来のES細胞を用いたEST法でヒトの発生毒性の有無をスクリーニングすることを創案した.歯科用金属組成元素であるAg,Cu,Pd,Zn,Sbの原子吸光用標準試薬,モノマーとして2HEMAならびにサリドマイドによる発生への影響をin vitroにおいて調べるべく,コラーゲンゲルで3次元培養したES-D3細胞の分化によってできた心筋の鼓動率をしらべた.なお,hepatocyteで培養しなかった場合を比較対照とした.その結果,あらかじめ代謝活性処理を行った場合と行わなかった場合では,試料無添加群の細胞分化率はともに66.7%であった.Ag,SbならびにサリドマイドでEBsの分化率が有意に低下した,逆にCuならびにZnではEBsの分化率はやや高くなった.またPd,ならびに2HEMAでは有意差が認められなかった.ラット由来の肝細胞でも同様な傾向であった.発生毒性試験には従来から動物実験が採用されてきたが,動物の種差によるバラツキがあり,ヒトと動物の代謝活性が異なることが予期せぬサリドマイド事件を引き起こす要因となった.ヒトの代謝活性因子を導入した本試験法は,スクリーニング試験として今後の発生毒性の存在を従来法と比べてさらに高い予知性が得られる可能性が大きいものと期待できる.
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