研究概要 |
高齢者あるいは歯周疾患で歯を失った場合,歯槽骨の高さや幅が減少し,義歯やインプラントなどの補綴装置の維持が困難となる.そのため,歯槽骨の再生さらには骨の増量(増生)を目的とする足場材料の開発が望まれている.今回,サンゴの特性(化学的組成、物理的強度、内腔の形態など)と、動物実験における生体吸収性を解明した。 (1)有機質を除去したユビエダハマサンゴの外骨格および内腔の形態を、マイクロCT、SEMおよび走査プローブ顕微鏡で観察した.その結果、サンゴ内部にみられる100から300μmの無数の腔は全て外界と連絡しており,連通性の多孔質であった.外骨格の表面は0.2から1μm角柱状構造物で覆われ、約70nmの丸みを帯びた無数の突起物が観察された.(2)サンゴの物理的性状を調べたところ、乾燥サンゴの比重および内腔の占める割合はそれぞれ1.28と45.4%であった.また,湿潤状態におけるサンゴの圧縮強さおよび硬さ(18.5MPa, 54.1)は,ラット大腿骨(52.9MPa, 77.8)と比較し,圧縮強さは約35%,硬さは約69%であった.(3)サンゴの粒子とともにヒト由来の線維芽細胞および血管内皮細胞を共培養し,これらサンゴの毛細血管への分化に与える影響を免疫組織学的観察により調べた.結果、サンゴ粒子の周囲にも細胞は増殖し,毛細血管への分化、形成が認められた.(4)多孔性カルシウム粒子をラット背部に埋入し、病理組織学的に観察したところ、リンパ球やマクロファージの浸潤は、埋入2週から4週後まで多く、以後減少した。カルシウム粒子の大きさに依存して異物巨細胞の出現、また生体吸収性の遅延に関係した. 以上のことから,これらサンゴの骨格構造は骨芽細胞などの細胞が付着し,増殖するのに適した構造であると考える.また,骨増生のために必要なスペースを確保できる物理的強度を保持していた.今後、サンゴは骨欠損部の術後や抜歯窩における骨増生を目的とした足場材料の開発のモデルとしての応用が期待される.
|