研究概要 |
頭頚部癌に対する放射線治療やシェーグレン症候群などにより唾液腺の萎縮が引き起こされ、患者は日常的に粘膜の炎症を引き起こし、慢性的な痺痛、会話や食事の障害を訴える。元来、口腔乾燥症の治療には、唾液様を成分を外部から補う人工唾液や残存する腺組織からの分泌を促進する各種薬剤が用いる対症療法が主体であった。そのため、唾液腺そのものの修復湖しくは再生を目指して正常唾液腺細胞を用いた実験が進められている。正常唾液腺細胞は腫瘍細胞と異なり、長期間培養することは非常に困難とされていたが、最近、種々の増殖因子を加えた低カルシウム濃度無血清培地を用いることでヒト唾液腺から未分化上皮細胞を得ることが可能となった。そこで、本研究は樹立した正常唾液腺培養細胞の腺組織への分化誘導とシグナル伝達経路の解析、さらには放射線照射後の萎縮腺組織への唾液腺細胞の移植による再生治療の可能性を検討することを目的としている。ヒト顎下腺より得られた培養細胞は、乳腺培養細胞なども同様で、EGFなどの増殖因子を添加した低カルシウムの血清培地にて培養を行っている。培養細胞の形態や性質は安定しているものの、8継代目になると細胞増殖速度が低下し、死滅する。この原因として、正常細胞を培養する際に、いわゆる「カルチャーショック」が生じ、p16が増加した結果、RB経路が停止する、細胞老化であることを明らかにし、これが通常の培養条件では回避不能であることが分かった。そのため、通常の培養ではこの障害を克服することは難しいため、われわれは、新たにヒト正常唾液腺培養細胞にCDK4,cyclinD1,human Telomerase Reverse Transcriptase(hTERT)の3つの遺伝子を導入することで、不死化に成功した。本培養細胞は現在、24代を経過して順調に増殖している。
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