研究概要 |
われわれは発生過程において細胞に位置情報を与えるホメオボックス遺伝子群に注目し, その発現異常と癌化あるいは浸潤・転移との関連性を解析してきた. その結果, そのひとつのファミリーで形態形成のマスター因子として知られているHOX遺伝子群(39個のHOX遺伝子からなる)の発現パターンが,口腔扁平上皮癌および前癌病変である白板症などの異形性組織では異常であることを見い出した. 本研究の目的は, 口腔癌において発現異常のみられたHOX遺伝子の発現ベクターを作製し, HOX遺伝子導入癌細胞の細胞生物学的性質を解析し, 口腔癌におけるHOX遺伝子の役割を見い出し, これらを指標とした口腔癌およびその悪性度診断システムの構築を試みることである. 今年度は下記の知見が得られた. リンパ節転移のあるヒト口腔扁平上皮癌組織で発現の高いHOXC5, HOXC6およびHOXC8が, リンパ節転移に関与しているのかどうかを調べるために, 各HOX遺伝子の発現プラスミドベクターを構築した. 各々のHOX遺伝子発現ベクターをヒト口腔扁平上皮癌細胞株にリポフェクション法で導入し, 各HOX mRNAおよび蛋白の発現をRT-PCR法およびウエスタンブロット法で確認した. リンパ節転移に重要と考えられる癌細胞とリンパ管内皮細胞との相互作用を解析するために, ヒト皮膚から樹立されたリンパ管内皮細胞の同定を行った. 現在,HOX遺伝子を強制発現させた癌細胞のリンパ管内皮細胞への接着性ならびにリンパ管内皮細胞の培養上清に対する運動性などを検討している.
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