研究概要 |
X連鎖性低リン血症くる病(XLH)は、発育遅延、低リン血症、骨形成不全を主症状とする遺伝性疾患であり、歯科的には特徴的な歯の石灰化異常を有する。Fibroblast growth factor (FGF)23は、常染色体性低リン血症性くる病の原因遺伝子で,さらに、XLHやその疾患モデル動物であるHypマウスの血清におけるFGF23の濃度が高いことなどから,リンの代謝や硬組織の石灰化に重要な役割を有することが示唆されているもののその詳細は不明である。本研究では、FGF23がリンの代謝異常を有するHypマウスの硬組織石灰化異常にどのように関連しているのかを検討した。まず,歯におけるFGF23の分布を,RT-PCR法およびin situ hybridiation法を用いて検討した結果、前エナメル芽細胞,エナメル芽細胞および象牙芽細胞にFGF23mRNAが発現していることがわかった。さらに,定量的RT-PCR反応の結果、Hypマウスの歯では、野生型マウスと比較してFGF23mRNAの発現量が有意に多かった。一方,小腸などで無機リンの細胞内への輸送に重要な役割を有している2型ナトリウムーリン酸共輸送体(Npt2b)が歯形成時にどのように分布しているかを調べた。その結果,エナメル芽細胞および幼若な象牙芽細胞にNpt2bが分布する事がわかった。また,歯根形成期においては,幼若な象牙芽細胞以外では一部の歯根膜線維芽細胞がNpt2b陽性であった。 XLHの原因遺伝子であるPHEXは,主に骨芽細胞や象牙芽細胞に発現し,FGF23の発現を負に制御すると考えられている。今回示したように,FGF23が骨ばかりでなく歯にも発現しており,さらに,Hypマウスにおいて過剰に発現することは,このことを裏付けている。また,Npt2bは小腸などにおいてリンの吸収を担っていることが報告されており,FGF23との関連も考察されているが,今回の研究において,硬組織形成細胞でない線維芽細胞などに発現していたことから,歯の形成過程においてNpt2bは石灰化と関連しない可能性が示唆された。
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