研究概要 |
フェニトインは広く用いられている薬剤で,血中薬物濃度は副作用である歯肉肥大の程度に相関する.我々も,この関係はラットを用いた動物実験で証明した.しかしフェニトインの適正な血中薬物濃度の維持は困難で,投与量によって代謝が飽和状態となり急激な血中濃度の上昇を生じる.フェニトインはチトクロームP450(CYP)2C9と2C19という酵素により肝臓で代謝されるが,これらの酵素には遺伝子多型のあることが知られている.遺伝子多型によってフェニトインの代謝能に大きな個体差が生じると考えられるが,これを明確に示した研究はない.本研究では,特に抗てんかん薬フェニトイン服用者での,歯肉肥大の重症度と血中薬物濃度を調査し,薬物代謝に関与するチトクローム酵素の遺伝子多型との関連を検討した. その結果,PHT投与量および血中濃度で、歯肉肥大重症度に対して正の傾向が見られたが、それぞれについて有意な関係は見られなかった CYP2C遺伝子多型保有者は歯肉肥大度に有意な違いを示さなかったが,CYP2C19^*m2保有者はC/D比が有意に高いこと分かった.これはCYP2C遺伝子多型の調査によりC/D比を予測できることを示している.PHT血中濃度と歯肉肥大発症には相関性があるという報告もあることから、PHT服用で歯肉肥大発症を予測する指標の一つとなるかもしれない.障害者では多剤多量の薬物を服用することが多く,薬物の相互作用または副作用は大きな問題であり,薬物代謝遺伝子多型は他の歯科疾患とも関係すると考えられ,歯科保健の向上に重要な意義をもつ.本研究の結果は薬物誘発性歯肉肥大の病因論に新たな方向性を示したものではないかと考えられる
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