本研究の目的は、患者個々の歯周病が、将来どの程度重篤化する危険性を含んでいるかを、口腔内細菌、特にPoyphyromnas gingivalisを中心とした常在する口腔内細菌の病原性を原核生物用遺伝子発現アレイから推測する診断法を開発する事にある。 歯周病原細菌として主たるP. gingivalisにまず着目し、口腔内で起こり得る環境変化に対して変動しやすい遺伝子群を探った。本菌体に、温度変化、pH変化、培地中のヘミン量の変化(臨床的には歯周ポケット内での出血の程度)および酸素ストレス等の環境変化を加えて、発現変化が顕著である遺伝子群を検索した。各ストレスに対して、特異的に大きな発現変化をする遺伝子群と、全てのストレスに共通して変動が認められる遺伝子群を遺伝子発現アレイ実験後、解析ソフトを使用して検索した。さらに、歯周病患者の臨床試料を使ってのパイロット実験を行い、歯周病が中等度の患者と重度に進行した歯周病患者から得られた細菌試料を使用し、発現変化の著明な遺伝子群を解析した。以上の様々な解析結果を総合し、歯肉の病態を推定するために必要な候補遺伝子群を決定した。 人の臨床試料から細菌RNAを採取するに当たり、どうしても口腔粘膜等から脱離したヒト細胞由来のRNAがコンタミネーションする事になる。細菌が付着・浸潤している歯肉組織から、細菌のみを単離することは極めて難しい。そこで、そのような臨床試料全体(ヒトRNAと細菌RNAの混在)を標識してアレイ試料にした場合と、全試料からヒトRNAおよび低分子RNAを極力除去したものを標識してアレイ試料にした場合とで、遺伝子発現アレイに及ぼす影響を検討した。その結果、ヒト・細菌の混在するRNA全体からヒト細胞由来のRNAおよび低分子RNAを除く事で、アレイ上でのバックグランドを押さえ、S/N比を2-3倍高める事が判明した。
|