研究概要 |
わが国では成人の多くが辺縁性歯周炎に罹患している。この疾患は進行すると歯槽骨の吸収を伴い, 発生予防および進行抑制が重要である。自然免疫系は細菌などの侵入を感知し, それを排除する生体防御システムである。自然免疫系においてはToll様受容体(TLR)の重要性が知られており, 歯槽骨の破壊現象においてもこのTLRが関与しているものと推測される。しかし, 骨代謝に関与する骨芽細胞とTLRに着目した研究は少ない。本研究の目的は骨芽細胞に対するTLRリガンドの影響を知ることであり, ウイルス由来二本鎖RNA(dsRNA)を認識するTLR3に着目して研究を遂行した。 昨年度, マウス骨芽細胞様MC3T3-E1(E1)細胞に合成二本鎖RNAであるpoly(I) : poly(C)を作用させたところ, 受容体であるTLR3およびRIG-Iの発現が誘導されることが明らかとなった。本年度は, もう一つのdsRNA受容体であるMDA5の遺伝子発現について検討した。E1細胞にpoly(I) : poly(C)を作用させたところ, poly(I) : poly(C)は, MDA5mRNAの発現を誘導した。また, E1細胞をIFN-βで処理することでMDA5mRNAの発現が誘導され, 抗IFN-β抗体は,poly(I) : poly(C)が誘導するMDA5mRNAの発現を抑制した。このことからpoly(I) : poly(C)によるMDA5の誘導にはTLR3, RIG-Iと同様にpoly(I) : poly(C)刺激によりE1細胞から放出されたIFN-βが関与しているものと思われた。 以上より骨芽細胞は上皮細胞と同様にウイルスの侵入に対する防御能を有していること, IFN-βを中心としたシグナル伝達経路が歯周疾患の進行において重要であることが示唆された。今後これらの因子に対する抗体を用いた動物実験等を行い, 歯科臨床応用への可能性について検討を行う必要がある。
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