我々はすでに、Streptococcus mutansにおいてジアシルグリセロールキナーゼ(Dgk)をコードしていると考えられる遺伝子が、本菌の耐酸性に強く関与していることを明らかにしており、この遺伝子を欠失させた変異株(SmDGK1)が酸陛環境下(pH5.5)で生育できないことを確認している。SmDGK1がDgkタンパクのC末端の10個のアミノ酸を欠失していることから、DgkのC末端からSmDGK1のDgk変異部位まで、上流に向かって一つずつアミノ酸を削除した10種類の変異株(すべてEm遺伝子を含む)とdgk遺伝子のストップコドン直下にEm遺伝子を挿入したコントロール株を作製し、耐酸性試験を行った。その結果、DgkのC末端から3個のアミノ酸を削除した時、耐酸性に変化が認められ、それ以降、アミノ酸を削除するにつれて耐酸性の低下が大きくなり、DgkのC末端から8個のアミノ酸が削除された時、変異株はpH5.5で生育することができなかった。次に、耐酸性の消失がDgkのキナーゼ活性の消失に起因しているかどうかを明らかにするために、種々の変異型Dgkタンパクを大腸菌で発現させ、undecaprenolを基質として活性測定を行ったところ、アミノ酸の削除とともにDgkのキナーゼ活性の減衰が認められ、耐酸性を消失した変異株で発現しているDgkタンパクにはキナーゼ活性は認められなかった。これらの結果より、S.mutansの耐酸性とDgkのキナーゼ活性との間には密接な関係があることがわかった。本研究の目的は鶴蝕細菌の耐酸性因子阻害剤を開発し、自らが作り出した酸性環境下で生育できないように編蝕細菌をコントロールすることである。本年度の研究結果より、Dgkのキナーゼ活性に対する阻害剤が騙蝕阻害剤として有効であることが確認された。
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