研究概要 |
看護の分野において,補完代替療法あるいは伝統看護への関心は高まりつつあるが,その効果に関する科学的根拠は少ない。本研究は,漢方医学の概念(東洋の知)に基づく感染看護の研究を通じ,補完代替療法あるいは伝統的看護を「経験」から「科学」として確立する目的を持つ。そのため,感染予防の3原則(「感染源の撲滅」, 「感染経路の遮断」,「生体防御能の増進」)と東洋医学,就中和漢薬の理念(生体のもつ自然治癒力のバランスの調整)の融合の視点に立ち,単に培養細胞実験系に止まらず動物実験を加え検討した。 既に乾姜と麻黄に,培養細胞実験系において抗インフルエンザウイルス作用があることは見いだしているので,それ以外の漢方生薬を探索した。その結果,桂皮由来cinnamaldehyde(CA:シナモン)は,培養細胞実験系において,インフルエンザウイルスの増殖開始後3-4時間の1時間添加した時,最大の増殖抑制効果を示すこと,その増殖抑制機構はウイルス蛋白合成を翻訳レベルで阻害することを見いだした。さらにマウスを用いた動物実験系において,CAの点鼻投与とCAから発せられる芳香吸入の治療効果を検討したところ,芳香吸入が有意に生残率を改善することを見いだした。伝統的に,和漢薬は原則として経口投与に限定されている。それ故に,芳香性・揮発性を利用した吸入投与は斬新と考える。しかも吸入投与に効果を認めたことは,感染看護の分野,特に芳香暴露によるインフルエンザの予防や病室・老人施設の環境衛生の確保に貢献できる可能性がある。同時に,直接のインフルエンザウイルス増殖抑制に加え,生体防御能増進作用のあることも示唆される。このことを踏まえ,今後シナモンに加え芳香性植物精油をも実験材料として,対象微生物に細菌も加え,効果的芳香暴露の研究を行う予定である。
|