研究概要 |
本研究は,東洋の知(漢方医学の思想)に基づく感染看護の研究を通じ,補完代替療法あるいは伝統的看護を「経験」から「科学」として確立する目的を持つ。そのため,感染予防の3原則(「感染源の撲滅」,「感染経路の遮断」,「生体防御能の増進」)と東洋医学,就中和漢薬の理念(生体のもつ自然治癒力のバランスの調整)との融合の視点に立ち,和漢薬の抗微生物作用を検討した。既に昨年度の研究において、桂皮由来cinnamaldehyde(シナモン)の感染細胞への直接添加にインフルエンザウイルス増殖抑制作用あること、及びシナモンの芳香暴露がマウスインフルエンザウイルス肺炎に対して治療効果があることを見いだした。この事実に基づき、本年度は、主として本ウイルスに対するシナモンあるいは芳香性植物精油芳香暴露の作用を検討した。 まず、インフルエンザウイルス(A型2株とB型1株)に対する不活化作用を検討した。シナモン100倍希釈液の室温直接接触1時間により、どのウイルス株も生残量は1/1000以下となり極めて強いウイルス不活化を認めた。一方シナモン芳香暴露(原液37℃、1時間)においても、どのウイルス株も生残量は約1/10に減少した。さらに、増殖によるプラック形成に及ぼす芳香暴露を、細胞毒性を示さない濃度(380倍希釈)で検討した結果、ウイルス株により異なるが、プラック数は、対照の42%〜50%に減少した。このことは、直接接触よりも弱いが、芳香暴露にも明らかなウイルス不活化作用および増殖抑制作用のあることを示している。従って、昨年度明らかにした、シナモン吸入のマウス肺炎モデルの改善効果の一部には、シナモン芳香のウイルス不活化および増殖抑制作用の貢献があることが強く示唆された。さらに植物精油ユーカリ(30%)の芳香暴露にも同様のプラック形成抑制作用および黄色ブドウ球菌増殖抑制作用にあることを見いだした。
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