研究課題
今年度は、昨年度実施したイギリスでの調査結果の分析と日本のデータとの比較、ならびにその学会発表と研究論文の執筆を行った。分析結果として、日英の精神科看護師の間で共通する倫理的悩み(倫理的に正しいことをしようとしても現実的な障害のために実行できないときに生じる悩み)は、「ケアに差し支える人手不足」に関する項目であった。実際には、両国間でスタッフ配置には数倍の差がある。逆に、「長期の社会的入院」「不適切なケア」「自分の能力を超える仕事」などでは日本が有意に高く、「訴訟回避のために家族の意向重視」「服薬拒否時の注射」などではイギリスが有意に高く、両国の精神医療を反映している項目もあった。全体として、日本に比べるとイギリスのほうが、倫理的悩みに直面する頻度は低いにも関わらず、悩みを強く感じる項目はより多くあった。また、年齢や経験年数が多くなると、イギリスでは倫理的悩みが減少するが、日本では両者の間に相関は見られなかった。さらに、MBI-GSを使用してバーンアウトを調査したところ、「疲弊感」と「シニシズム」では両国の看護師はほぼ同じ値を示したが、「職務効力感」ではイギリスの看護師のほうが、はるかに高い効力感をもっていることがわかった。この効力感の高さが日本より多くの場面で倫理的悩みを感じているにもかかわらず、バーンアウトを防止しているものと考えられる。しかし、国民性や個人の価値観など、今回調べなかった要因も倫理的悩みに影響していると思われるため、今後さらに調査する必要がある。今年度は上記の結果を学会発表した。また論文として、日本の結果をもとにした尺度開発と日本における倫理的悩みの実態、及び倫理的悩みの日英比較の2本をまとめ、国際誌に投稿中である。さらに、今年度イギリスのコミュニティ・メンタルヘルス・ケアの見学を行ったので、総説としてまとめた。
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三重看護学誌 12(印刷中)