本研究の目的は、統合保育に参加する病気や障がいのある子どもと仲間・保育士の社会的相互作用場面で観察される社会的行動の性質と意味について発達的変化を検討することにある。 平成20年度は、保育所・クラス担任および被観察者の保護者と各クラス保護者の同意を得て、統合保育に参加する健康障害のある子ども4名とクラスメイト(3クラス:3歳児〜5歳児の混合クラス)79名と保育士9名を対象に、保育場面の縦断的行動観察を実施した。また被観察者は療育機関に継続的に通園していたため、療育機関での治療過程や家庭環境を理解するために保護者と年3〜4回の面接を実施した。 その結果、例えば自閉症と知的障害のある5歳児では、視覚・聴覚・触覚といった自分の身体感覚を手がかりに、信頼する保育士に支えられて、集団生活に受け入れられるパターン化された行動やこだわりといった行動様式と彼なりの生活秩序を作り出した。特に、集団生活における「主体的な参加」は、保育士の「お話をします。いい?」という声かけにはじまり、写真(絵)・言葉による説明を受けることで集団生活に見通しを持って参加することができた。言葉による説明とは、例えば「粘土遊びをします。」という通称表現ではなく、子どもの世界を言語化して「JAPANします(粘土遊びで子どもが表現していた世界)」と表現することで、子どもは深い納得と豊かな活動ができた。また最後の「いい?」という問いかけは、「決めるのは子ども自身である」という主体性を導き育む重要な意味を持っていた。この保育により、主体的で自律的な生活となりパニックを起こすことも少なくなった。また、パニックを起こした時も彼らの視覚・触覚刺激と自己刺激への反応を導き出す保育により、快情動を引き出しつつ、子どもの思考と感情、現実の同化、精神内部の葛藤の解決、支配の達成、健康的で効果的な対処を可能にする場面も観察されるようになった。
|