研究概要 |
▼本研究は、若年性神経難病患者の"社会との接点"と"SEIQoL-DW"との関連に焦点を当て、患者の生活の質(Quality of Life, QOL)の向上に寄与する方策を検討することを目的とする研究である。 ▼本年度は若年性パーキンソン病患者50名を対象に、(1)ライフヒストリー法による個人の生活史の把握、(2)SEIQoL-DW、(3)MASAC-PD31、の調査を行った。以下、主にSEIQoL-DWの結果について述べる。 ▼SEIQoL-DWは原則として1年に一回ずつ実施し、今年度は過去からの調査の蓄積により、50名のうち、1回目の実施が10名(10回)、2回目の実施が7名(14回)、3回目の実施が14名(42回)、4回目の実施が10名(40回)、5回目の実施が9名(45回)となった。全151回の平均値は69.80±18.48であった。若年患者に最も特徴的なキューとしては「仕事」が挙げられ、また、「家族」というキューの構成要素から子育てと老親の介護という両側面の事象を抱えていることが浮かび上がった。また、2年以上で複数回実施した40名のデータから、インデックス値の変動が大きいケース(前年度と比較して便宜上±15以上の変化)の原因について分析した。大きく下降したケースでは、(1)自分自身の喪失体験(仕事、お金、健康、離婚など)、(2)家族の問題(失業、病気など)、(3)夫婦間の関係性の悪化、が主な原因として挙げられた。一方、上昇したケースでは、(1)家族との関係性の向上、(2)失ったものに代わる何かを得る、(3)考え方の枠組みの変容、が主な原因であった。全体的に"家族関係"の状況が値の変動に大きく影響していたが、仕事や患者会などの"社会との接点"の状況も重要なものであった。 ▼現役世代ならではの家族や就業などに関連する様々な問題を抱えている若年患者において、SEIQoL-DWを用いて経時的に計測を続けると、値の変動の原因がつかみやすかった。またその原因を対象者と一緒に考えることで、それぞれの対処方法なども浮かび上がってきた。若年患者の場合、生活に直結する喪失体験に患者自身がどう対処し、ナラティブの書き換えを行えるかがQOL維持の鍵である。
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