本研究は、精神障害をもつ人の力量を高め、精神障害者を取り巻く環境に働きかけることができるようなエコロジカルな視点を取り入れた当事者力量精神看護モデルを開発することを目指している。平成20年度は、当事者の力量形成に影響を与える社会文化的な要因を探り、平成19度の研究成果(精神障害者がもつ力量に関する調査、精神科看護師を対象とした当事者力量を高める援助技術に関する調査)と併せ、当事者力量精神看護モデルを構成する概念を検討した。 当事者力量に影響する社会文化的な要因については、病院一地域を包括した精神障害者支援ネットワークを確立している地域における支援について、精神障害者の地域生活支援や社会参加との関連から、地域ぐるみの支援ネットワークの構築に至るまでの経緯、ネットワーク化を進めていく上で生じた問題や意見対立及びそれらへの対応、ネットワークの構造、ネットワーク内外での連携及び合意形成のプロセス、ネットワークに対する当事者・住民・保健医療従事者の価値づけなどを分析した。次に、当事者力量精神看護モデルの構成概念については、英国において精神看護モデルの開発過程およびモデルの実践への適用の実際についての聞き取り・観察結果に基づき、当事者力量の視点からモデルに含む概念を検討した。 当事者力量に影響する社会文化的要因として、当事者の参加、働く場、仲間、重層的で柔軟なネットワーク、普通のつながり、顔の見える共同体、価値を共有しながらも多様な存在の仕方ができる共同体などが抽出され、モデルにコミュニティ・アプローチを含む必要が示唆された。当事者力量の構成概念として、希望、自らの主、自助、絆、病気体験の再(生)利用、存える知恵などが抽出された。
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