研究概要 |
本研究の目的はイタリアの精神病院閉鎖に伴う看護師の地域精神保健活勤の実態を明らかにすることである。1978年にイタリアのトリエステで始まった精神疾療改革に携わった看護師3名に改革当時に看護師が何を行い,また自分達の役割が変化することに対してどのような思いを持っていてのか等インタビューを行った。さらに4つの精神保健センター,看護師との訪問同行などを通して,そこで働く看護師に現在の自分達の役割についてインタビューを行った。 精神医療改革時,改革に賛同する看護師と反対する看護師とに分かれ,反対する看護師の多くはやめていった。しかし意志を持って集まってきた医師や,改革を進めようと残った看護師とが毎日ミーティングを開き話合いを行いながら,少しずつ入院患者を地域で暮らすことができるよう関わった。また地域の住民からの抵抗も多くみられたが,その都度医師と看護師がその場へ出向き,住民へ根気強く説明を行い,精神障害者がその地域で暮らし続けることができるよう働きかけた。 そのような改革を経験した看護師は,あまりにも大きな変化にとまどいを感じていたが,病棟を閉鎖するのではなく,カギを開け,扉を開けることが治療的であることを自分自身が実感し,改革を推進しようと決めたという。しかし改革が進むにつれて,入院していた患者がみな地域に帰ってしまい,自分自身が人生をかけて改革を進めてきたにもかかわらず,自分の得割がたなくなってしまったような喪失感をもち,一時的に看護師をやめた看もいた。病院から患者が出ることに抵抗を示した医療従事者のほとんどが,自分たちの役割の変化にとまどったことと,さらには病院内で自今のもつ一定の権力を失うことを恐れたからだと話した。現在の看護師達は改革当時の教訓から,常に自分目身を振り返るように心がけていた。
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