本研究の目的はイタリアの精神病院閉鎖に伴う看護師の地域精神保健活動の実態を明らかにすることである。昨年度はイタリアのトリエステで始まった精神医療改革に携わった看護師3名にインタビューを行ったが、今年度はさらに人数を増やして看護師4名に対して、改革当時に看護師が何を行い、また自分達の役割が変化することに対してどのような思いを持っていたのか等についてインタビューを行った。看護師の1名はギリシャからトリエステの改革にわざわざ賛同するためにやってきた者や、改革前からトリエステで看護師として務めていたが、特に改革に対して抵抗は感じずに、医師に言われたまま行ったという2名、若かったのでまずは時代の流れにのってみようと思ったという1名だった。今回インタビューを精神保健局に依頼した際に「改革について話したくない」と断った看護師もいたとの報告を受けたことからも、改革から20年以上経っているにも関わらず、未だに当時のことについて受け入れることができない、もしくは語ることを拒む状況にある人もいることがわかった。 さらに今年度は改革を経験した精神科医師1名、当事者5名、精神障害者に関するボランティア活動を行っている市民1名にもインタビューを行った。改革当時と比較すれば、現在は精神障害者に関する偏見は少なくなっているように感じるが、公的な資金として精神障害者の地域での生活や文化的な活動に当てられる額が少ないことが課題であると話す人が多かった。また当事者と看護師の関わりについては、疾患に伴う問題のみならず、地域で精神障害者が自分らしい生活や自分の望む生活を営む上で就職、文化的活動等への関わりを積極的にもっていることがわかり、日本での地域精神保健活動への示唆が得られた。
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