生体内のほとんど全ての末梢組織に、概日時計が存在することが示されている。しかし、それらの末梢概日時計が、それぞれの組織の生理機能に何らかの役割を持つのかどうかはわかっていない。これまでの研究の結果、卵巣に存在する概日時計の位相は、黄体形成ホルモン(LH)や濾胞刺激ホルモン(FSH)によって調節されている可能性が高いことをin vitro実験において示すことができた。そこで本研究では、これらの生殖ホルモンがin vivoにおいても同様の作用を持つか否かを時計遺伝子Period2プロモーター下流にルシフェラーゼレポーターを組み込んだトランスジェニックラット(Per2-lucラット)を用いて検討した。 ラットなどの実験動物では、雌は4〜5日周期で発情を繰り返し、発情前期の日の決まった時刻に起こるLHサージが排卵を誘発する。LHがin vivoにおいて卵巣概日時計の位相を調節しているなら、LHサージの前後において卵巣概日時計の位相は変化すると考えられる。そこで、発情周期のうち、LHサージの起こる前日(発情間期)と翠日(発情期)におけるPer2-luc発現リズムの位相を比較したところ、有意差が認められた。次に、生体内におけるLH濃度を一定に保ったときに、卵巣の概日時計にどのような変化が見られるかを解析した。具体的には、生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)のアゴニストを投与することにより、LHを高濃度一定とした。その結果、GnRHアゴニスト投与群では、卵巣におけるPer2-luc発現リズムの振幅は著しく減衰することがわかった。これらの結果は、LHサージがin vivoにおいて卵巣概日時計の位相を調節する可能性を強く示唆している。
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