音響外傷などで障害された内耳有毛細胞を自ら修復・再生させる方法として、内耳への薬剤投与が挙げられる。 肝細胞増殖因子(hepatocyte growth factor: HGF)は、中村らにより精製・クローニングされた多彩な機能をもつ増殖因子である。本研究ではHGFの再生能力をより強力に発揮させるための再生医療技術として、徐放技術を用いたドラッグデリバリーシステム(DDS: drug delivery system)を採用することとした。DDSは体内に投与したHGFが時間をかけて徐々に放出されるようにデザインされたもので、徐放化にはゼラチンハイドロゲルを用いる。本研究ではこのゲルを蝸牛正円窓から作用させることで、内耳有毛細胞に対する低侵襲・高度選択的なHGF投与を実現した。 実験1) in vitro実験-HGF効果発現のメカニズム ・障害後HGF投与 マウス内耳器官培養系を用いて、有毛細胞傷害後にHGF投与を行う。Whole-mount免疫染色・ファロイジン染色により有毛細胞残存数を計測し、HGFの効果を測定した。HGFはネオマイシン障害内耳に対して保護作用を有し、最適濃度は20ng/mlと微量であることが確認できた。同時に障害内耳でのHGFおよび受容体c-METの発現量および時期的なパターンを、Western blotting法により測定した。 ・マーカータンパクの発現計測による支持細胞-有毛細胞間相互作用の解明 Whole-mount免疫染色を行い、HGF受容体が内耳のどの部分に発現しているかを測定した。 実験2) in vivo実験 ・騒音難聴・薬剤難聴モデルの開発 モルモットを使い、騒音曝露による難聴モデルを作製した。また、現在このモルモットを使って音響外傷時のHGFによる内耳保護効果を計測中である。
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