本態性高血圧症は心疾患、脳卒中および腎不全などのリスクファクターであり、その発症機序解明は極めて重要な課題である。本研究では「本態性高血圧の発症は循環調節中枢における炎症反応異常に起因する」という独自の研究仮説を検討するために、高血圧ラット(spontaneously hypertensive rat: SHR)の循環調節中枢(孤束核)で異常発現している炎症反応関連分子の同定ならびに循環調節に関わる機能的特性について検討した。また、SHR孤東核では白血球過剰接着が見られたことから、循環調節中枢での低血流(低酸素)が高血圧発症に起因している可能性も考えられる。このような経緯のもと、孤東核血流障害が循環調節に及ぼす影響についても明らかにした。 リアルタイムPCRにより炎症性サイトカインである、IL-6、CCL5、IFNα1、OX40Lの発現量がSHRと正常血圧ラット(WKY)で有意に差のあることがわかった。麻酔下ラットの孤束核にIL-6を微量注入したところ圧反射の抑制、孤束核グルタミン酸依存性徐脈反応の減弱が見られた。一方、孤束核近傍にあり循環調節に関わる最後野へのIL-6注入は圧反射に影響を及ぼさなかった。また、CCL5についても機能的特性を調べたところ、孤束核へのCCL5注入は血圧低下を引き起こし、特にSHRにおいてその反応が顕著であった。 孤束核血流障害が循環調節に及ぼす影響を調べるために、尾側延髄背側にあり、孤東核からの出力血管系を受ける静脈を切断した結果、血圧の持続的な上昇を認め、この反応は圧反射系の破壊(求心路の切断)により増幅された。 以上より循環調節中枢における炎症反応異常は(i)一部のサイトカインの異常発現により、また、(ii)孤束核血流障害による低酸素状態により、神経細機能に影響を及ぼし、交感神経系の賦活を引き起こしている可能性が明らかにされた。
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