DNAメチル化阻害薬やピストン脱アセチル化酵素阻害薬を用いたエピジェネティック治療は欧米を中心に臨床の場でがん患者に投与され効果をあげているが、胃がん対する効果は不明である。一方、microRNA(miRNA)は21-25塩基程度の小さなRNAであり、複数の標的遺伝子を抑制的に制御し、がんをはじめとする多くの疾患の発生・進展に重要な役割を果たしている。本研究では胃がんに対するエピジェネティック治療の抗腫瘍効果を分子生物学的に解明するため、miRNA発現変化を網羅的に解析した。胃がん細胞株AGSをDNAメチル化阻害薬(5-aza-2'-deoxycytidine)およびピストン脱アセチル化酵素阻害薬(4-phenylbutyric acid)で処理し、miRNAの発現変化をマイクロアレイによって網羅的に解析した。胃がん細胞においてDNAメチル化やヒストン修飾によって制御されているmiRNAの候補を同定し、標的遺伝子についても検討した。興味深いことに、エピジェネティック治療によって最も大きな発現変化を認めた上位15のmiRNAのうち、14(93%)が染色体19番上の反復配列であるAlu配列近傍に位置していた。この変化は他臓器のがんには認められない変化であり、胃がんに対するエピジェネティック治療によってAlu配列に関連したmiRNAが優先的に活性化されることが示された。これらのmiRNAのAlu配列を含むプロモーター領域は高度にメチル化され、ヒストン修飾も不活性化されていたが、エピジェネティック治療によって脱メチル化され、ピストン修飾も活性化されることを確認した。特に最も高い発現上昇を認めたmiR-512-5pは抗アポトーシス因子であるMCL1癌遺伝子を標的にすることが示され、エピジェネティック治療によるmiR-512-5pの誘導がMCL1の抑制を介してアポトーシスを引き起こすことが示された。以上から、エピジェネティック治療がmiRNAを介した胃がんの新たな予防・治療戦略となることが示唆された。
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