研究概要 |
本研究の目的は、社会保障の充実が親子関係を希薄にするというような通念が、合理的な親および子の行動の結果として理論的に正当化されるのかを検討し、それを踏まえて公的年金・介護保険が家族の厚生に与える影響を評価することにある.本研究の大きな特徴は、親および子による居住地の選択を明示的に考慮することにある.なぜなら、親と子の居住地の距離は、子がアテンションを提供するためのコストの決定要因であり、アテンションの供給量に直接的な影響を及ぼすからである.現段階では、遺産動機や利他性に関する様々なセッティングの下で、公的年金・介護保険が親子の相互依存関係(アテンション、家族内所得移転)に及ぼす影響について検討している. より具体的には、Konrad et al.(AER,2003)をベースとして,次のような基本モデルの構築を行っている.年金を分析対象とするモデルでは,(1)政府が年金の保険料と給付水準を決定する(ただし,政府はゲームのプレイヤーではない),(2)子が居住地を選択する,(3)子がアテンションを選択する,(4)親が遺産を選択する,という手番にしたがってゲームが行われる.介護保険を分析対象とするモデルでは,(1)政府が介護保険の保険料と介護サービスの給付水準を決定する,(2)子が居住地を選択する,(3)自然がある確率分布の下で親が要介護状態になるか否かを決定する,(4)子がアテンションを選択する,(5)親が遺産を選択する,という手番にしたがってゲームが行われる.さらに,遺産動機が存在する否か,存在する場合には,利他的動機か,戦略的動機かを考慮しケース分けを行っている.上述のモデルに基づき,均衡(サブゲーム完全均衡)を導出し,年金の保険料および給付水準の引き上げや介護保険の拡大を想定して比較静学分析を行っている.これによって,親子の相互依存関係,すなわち親と子の居住地の距離,子から親へのアテンション,および,親から子への遺産が,公的年金や介護保険からいかなる影響を受けるかを検討している.
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