大学において全学的ナレッジマネージメントを担うのは、学内のデータを集約・蓄積し、これを教育、研究、組織運営のために活用するインスティテューショナル・リサーチ(IR)部門-大学機関調査・研究部門-である。米国のIR関係者は、早くからIRにおけるナレッジマネージメント(KM)実践の必要性を指摘し、ナレッジマネージメントは、IRの代表的役割、すなわち、情報管理、分析、評価、調査研究に続く欠くべからず業務となった。本研究ではこれに着目し、IRが担うナレッジマネージメントの概念と機能のメカニズム、その期待すべき効果を明らかにすることに加え、大学教育における効果的情報運用のあり方と具体的メソッドを明らかにした。まず、同分野で顕著な進展がみられる米国IR機関並びに協会など10件を訪問した結果から、ナレッジマネージメントを支える理論、応用状況、活用の範囲とその効果、実践過程で生じた問題点や課題などを明らかにしている。次いで日本におけるナレッジマネージメント実践の試みを、社会科学系の国立大学法人で行われているIR業務を事例として報告している。KMの一つのモデルとして、データ収集方法、データ加工、定性ソフトを活用した各種調査のデータ化、分析モデルの開発とモデルの試行、定量ツールによる分析とその結果を紹介するものである。さらに、分析から得られた情報を「知」に還元し、その「知」がいかにして学内で共有されたか、もしくは共有され得るかを検討した。これらの作業を通し、学生、職員、大学運営全体にとって有用な情報は何であるのか、それらの情報をどのように収集し、分析し、まとめ、各々に配信していくべきか、さらに、それらの情報が最大限に活用されるためにはいかなるインターフェイスを整備するべきなのかを明らかにし、その結果を学内外のワークショップ、学会、報告書、論文、冊子などで発表した。
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