脊髄後根神経節(DRG)ニューロンは、生体内外で起こる多様な侵害情報を伝えるべく多種多様に分化している。本研究は、独自に開発した「ラットIn vivo標本によるDRGニューロンホールセルパッチクランプ法」を用いて、骨格筋を支配するDRGニューロン(骨格筋DRGニューロン)が持つ様々な性質(受容野応答特性、イオンチャネルの発現パターン、軸索の伝導速度、活動電位の形状等)を統合的に解析し、骨格筋の虚血性収縮時に起こる痛みの発現機序を明らかにすることを目的とした。現在までに、C線維とAδ線維を有する高閾値機械受容型(C-HTM、Aδ-HTM)の骨格筋DRGニューロンから記録した。C-HTMは、幅が広く下降相に屈折点を伴う活動電位を呈し、過分極電位パルスに対してH電流をわずかに生じた。また、C-HTMの8個中4個が、温刺激(〜40℃)に応じた。このような侵害受容性の特性を示したC-HTMの8個中6個が、実験的に虚血性筋収縮を起こした際に放電した。この骨格筋DRGニューロの細胞体へ酸性液を灌流投与したところ、脱感作の早い一過性の内向電流が生じたことから、当初の仮説通り、酸感受性イオンチャネル3(ASIC3)が、虚血性収縮時の組織酸性化を感知してC-HTMを興奮させる可能性が示唆された(国際疼痛学会にて発表;2008、Pain Research;印刷中)。しかし、現段階では、記録の例数も少なく、虚血性筋収縮時のASIC3の活性化とC-HTMの放電を結びつける直接的証拠は得られていない。今後も、骨格筋DRGニューロンの統合的解析と系統的分類を進め、虚血性収縮時の侵害情報処理機構の解明を目指す。
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