三叉神経支配領域に出現する疼痛に対する鎮痛・徐痛方法を開発するためには、求心性神経情報の脳幹内神経回路における処理様式を理解することが必要である。本研究は、三叉神経路脊髄核内における痛覚処理過程における抑制性ニューロンの役割を解明することを目的としている。本年度は、GAD67-GFPノックイン新生マウスから三叉神経-脳幹スライス標本を作製し、三叉神経根を電気刺激することにより、三叉神経路脊髄核内GABA性ニューロンの応答を、ホールセルパッチクランプ法を用いて記録した。その結果、GFP陽性(GABA性)ニューロン20例中17例において刺激後、興奮性シナプス後電位(EPSP)が見られた。残り3例ではEPSPと抑制性シナプス後電位(IPSP)が見られた。これに対し、GFP陰性(非GABA性)ニューロン31例においては、EPSPのみ認められるものが11例、IPSPのみが2例、EPSPとIPSPの両方認められるものが18例であった。いずれのニューロンにおいてもEPSPは刺激後約10msの潜時で、IPSPは刺激後約25msの潜時で現れた。また、記録電極内にテキサスレッドを混ぜ、ニューロンの形態を調べた。GABA性ニューロンの細胞体はほとんどが多極型(10例中8例)であるのに対し、非GABA性ニューロンは双極(10例中5例)あるいは錐体型(5例)であった。以上の結果から、三叉神経路脊髄核のGABA性ニューロンは、三叉神経より興奮性入力を受け、同じ核内の非GABA性ニューロンの活動を抑制するものと思われた。このことから、GABA性ニューロンの活性化は三叉神経支配領域の疼痛に対し鎮痛効果を持つと考えられた。
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