研究概要 |
三叉神経支配領域に出現する疼痛に対する鎮痛・除痛方法を開発するためには、求心性神経情報の脳幹内神経回路における処理様式を理解することが必要である。本研究は、三叉神経路脊髄核内における痛覚処理過程における抑制性ニューロンの役割を解明することを目的としている。これまでに、GAD67-GFPノックイン新生マウスから三叉神経-脳幹スライス標本を作製し、三叉神経根を電気刺激することにより、三叉神経路脊髄核内GABA性ニューロンの応答を、ホールセルパッチクランプ法を用いて記録した。その結果、三叉神経路脊髄核のGABA性ニューロンが、三叉神経より興奮性入力を受け、同じ核内の非GABA性ニューロンの活動を抑制することを明らかにしている。本年度は,膜電位イメージング法を新生マウス脳幹標本に適用し,三叉神経根の電気刺激に対する延髄三叉神経脊髄路核における神経興奮伝播様式を動画像として解析し,さらに三叉神経痛治療薬カルバマゼピンの神経興奮伝播に対する抑制効果を検討した。三叉神経付き脳幹ブロックおよびスライスの両標本を膜電位感受性色素で染色した後,標本からの赤色蛍光を特殊高速高感度光計測システムで計測・記録した。三叉神経根の電気刺激後10msで三叉神経脊髄路尾側亜核に強い蛍光,すなわち興奮が認められ,その後数百ms持続した。興奮が長期間持続する状態はcentral sensitization(中枢神経における痛覚増強)と考えられた。電気刺激によって誘発される尾側亜核の興奮は100μMカルバマゼピンの投与で著しく抑制された。以上の結果から,本年度の研究においては膜電位イメージング法を用いてcentral sensitizationとカルバマゼピンの痛覚抑制効果が三叉神経脊髄路尾側亜核のレベルで惹起されることを明らかにした。
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