研究概要 |
N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体に選択的な内因性リガンドのDセリンをラット第三脳室内に投与し、Tail-Flick法にて抗侵害効果について解析した。その結果、1.Dセリンの脳室内投与によって、用量依存的に抗侵害効果が観察され、この効果はDセリンの作用点であるNMDAI受容体グリシン結合部位の拮抗薬L-701,324によって拮抗された。2.Dセリンはモルヒネの抗侵害効果を相加的に増強し、この増強効果はL-701,324によって拮抗された。3.Dセリンの抗侵害効果はオピオイド受容体の非選択的拮抗薬ナロキソンによって拮抗された。4.L-701,324(137 nmol)単独投与により、hyperalgesiaが観察された。すなわち、脳内NMDA受容体グリシン結合部位を介して、オピオイド受容体を刺激し鎮痛作用を示すことを明らかにした(Eur J Pharmacol 2007,565;89-97)。また、Dセリン鎮痛効果とベンゾジアゼピン受容体との関連性を明らかにする目的として、ミダゾラムをラット第三脳室内に投与し、Tail-Flick法にて抗侵害効果について解析した。その結果、1.ミダゾラムの脳室内投与によって、用量依存的にhyperalgesiaが観察され、この効果はベンゾジアゼピン受容体拮抗薬フルマゼニルによって拮抗された。2.ミダゾラムはDセリンおよびモルヒネの抗侵害効果を減弱し、この効果はフルマゼニルによって拮抗された(Eur J Pharmacol 2008,in press)。これらの結果より、Dセリンは脳内のNMDA受容体グリシン結合部位を介して、オピオイド受容体を刺激し鎮痛作用を示し、ベンゾジアゼピン受容体と連関していることが示唆された。すなわち、Dセリンは疹痛の下行性抑制系路を亢進し、鎮痛作用を有し、その効果はミダゾラムで拮抗されることが明らかとなった。 これまで、Dセリン合成酵素のセリンラセマーゼ(Srr)はアストログリア細胞にのみ存在すると考えられてきた。Srr mRNAの詳細な組織及び細胞分布をin situ hybridization法で解析した結果、Srr mRNAは主に神経細胞に局在することを明らかにした(Arch Histol Cytol 2007;70(2):127-134.)。これらの結果は、Dセリンの鎮痛効果とその機序を解析する上で重要な知見となると考える。
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