ウイルス肝炎が多発するアジアにおけるその流行実態を把握することは、国際保健上意義がある。特に主として汚染された飲料水により感染するA型およびE型肝炎は、その流行実態が不明な点が多い。そこで本年度は、東南アジア地域を対象にして、E型肝炎ウイルス(HEV)の疫学実態を調査した。方法は、肝疾患患者および供血者由来血清を対象にして、HEVの組換えウイルス様中空粒子(カプシド領域)を用いたELISA法で行った。 結果は、HEV-IgG抗体陽性率はタイ(バンコク)・27%、ベトナム(ホーチミン)・42%、ミャンマー(ヤンゴン)・35%、ネパール(カトマンズ)・66%といずれも高値を示した。年代別抗体獲得率は、16〜30歳代で既に20%を超えていた。最も高い陽性率を示したネパールでは、非B非C型急性肺炎と診断された25例において、14例(56%)がIgMクラスHEV抗体陽性を示した。このうち3例で血中HEV RNA陽性を示し、その遺伝子解析からHEVゲノムタイプ1に属した。この成績から、東南アジア地域では、HEVが広範囲に蔓延しており、そのワクチンによる予防対策の重要性が示唆された。 加えて、自然界におけるHEVの動物宿主を探索するために、ミャンマーに生息する野ネズミを対象として、その疫学調査を実施した。その結果、ドブネズミ106/150(70.7%)でHEV IgG抗体陽性を示した。以上の成績から野ネズミにおいて、HEV感染が蔓延している可能性が示唆された。自然界におけるHEVの動物宿主として、またヒトヘの感染源として今後考慮する必要がある。
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