本年度は、昨年度に引き続き、新潟弁護士会、坂東克彦法律事務所における現地調査により、一次資料の保存、整理、分類を行った。10万点を越えると思われる一次資料について、本年度は一万点近くの整理を行い、半数以上の整理を終えた。整理済みの資料は、新潟県立「環境と人間のふれあい館」において逐次公開されており、同館の来訪者が堅実に推移し啓蒙活動が活発に行われていることからしても、本件研究活動成果の一部は資料公開を通じて社会に還元されている。 本年度の研究成果の発表として、2008年6月に環境法政策学会2008年度学術大会分科会において口頭発表を行い、のち、論文「病像論再考-水俣病事件覚書」法学72巻6号82-116頁(2009)を発表した。本研究の主要テーマである司法の社会秩序形成機能については、二つの国際学会における発表を行った。2008年9月、中国長春市吉林大学における第7回東アジア法哲学大会において「裁判による公害問題の解決とその限界-水俣病事件の経緯について」と題する口頭発表を行い、同論文全文が、学会論文集122-130頁に公表された。また、2009年2月、オーストラリア・日本法ネットワーク(ANJeL)研究会(立命館東京キャンパス)において、"Limit to Litigation in Addressing Environmental Pollution : An Historical Survey of the Minamata Disease Crisis"と題する口頭発表を行った。本研究会全体の成果は次のように要約することができる。すなわち、公害事件の解決に際し、行政庁が病像論の第一次有権解釈論を有するため、裁判所によるチェック機能には限界が存し、その結果、現憲法下の権力分立システムは、紛争解決と社会秩序形成を十分に実現できないという"法の失敗"を必然的に孕むものである、という結論である。
|