研究概要 |
重大犯罪に対する近時のメディア報道の過熱は,強い報復・処罰感情を視聴者や読者に植え付ける。政治家は一般民衆の報復・処罰感情に訴えて厳罰化政策を進める。研究者の分析結果によると,しばしば被害者は加害者を人間でない怪物と見,加害者は被害者を怒りと憎しみの逆襲者と見る。関係をこのような分断状況に留めて置いてよいものだろうか。被害者と加害者の新たな関係秩序の形成を探求するのが本研究の目的である。 当の被害者と加害者との対面対話による新たな関係の形成は修復的正義(司法)の中核的な機能であるが,その周辺にある準修復的正義(司法)では,一般の被害者と一般の加害者との間で行われる社会的相互作用(意思,感情,アイデアの交換)を利用する。通常VIP(victim impact panels)と呼ばれているが,これには基本型と変型がある。基本型は,相互理解(出来れば感情の共有)のため一般の被害者が刑事司法機関に出向き一般の加害者集団に講話,グループワークを試みる方式である。本年度は,1)VIPの学術論文6編,及び英国内務省のYouth of fender panelsの実施手引きを訳出した 2)我が国におけるVIP相当プログラムの実施の現状と課題について家庭裁判所,少年院,刑務所を現地調査した 3)刑務所/少年院に出向いて講話などの活動をしている被害者に,予め用意した調査票を基に面接調査を実施した4)法務省矯正局に依頼して全国の刑務所に対して「被害者視点を取り入れた教育」プログラムの現状と課題に関する調査票を発送,回収した5)関係の形成にはもう一方の関係者である加害者に対する支援を無視することは出来ないのであるから,地域にあって非行の克服を支援するNPO法人にアクセスした6)NPO法入,被害者加害者対話の会運営センターを現地調査した。
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